利益相反行為にあたる不動産取引と取締役会の承認決議

株式会社における利益相反取引と承認|名古屋の司法書士八木隆事務所

株式会社における利益相反取引と承認

株式会社における利益相反取引

趣旨
取締役が、会社の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ることを防止するために、利益相反取引に該当する取引を行う場合には、取締役会(取締役会非設置会社の場合は株主総会)の承認を得なければならないとされています。

 

取締役会等は開示された契約書案等をもとに、当該取引が会社に不利益を及ぼすか否かを判断することになります。

 

利益相反取引とは

@直接取引
取締役が、自己又は第三者のためにする会社との取引 

 

直接取引の例
・取締役が自己の所有する不動産を自己が取締役をしている株式会社に売却する行為
・株式会社所有の不動産を取締役個人が買い受ける行為
・甲株式会社の取締役が、乙株式会社の代表取締役として甲株式会社と取引する場合

 

A間接取引
会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において会社と当該取締役との利益が相反する取引

 

間接取引の例
・甲株式会社の代表取締役Aの債務につき、甲株式会社と乙銀行が保証契約を締結する場合
・甲株式会社の代表取締役Aの債務につき、乙銀行のために甲株式会社所有の不動産に抵当権を設定する場合

 

利益相反取引に該当しない行為
・取締役が所有する不動産を自己が取締役をしている株式会社へ何ら負担のない無償譲渡をする場合
・取締役が自己が取締役をしている株式会社に無利息、無担保で金銭を貸し付ける場合

 

利益相反行為の承認決議

利益相反取引を行う場合には、取締役会設置会社は取締役会の、取締役会を設置しない会社は株主総会の承認を受けなければなりません。

 

承認を受けた利益相反取引(直接取引)は、民法108条(自己契約・双方代理の禁止)の規定が適用されません。

 

取締役会等の承認を受けたかった場合
会社は承認を受けていない利益相反取引の無効を主張することができるとされています。

 

ただし、第三者が存在する場合には、取引の安全を保障する見地から、会社は第三者が取締役会等の承認を受けていないことにつき悪意(知っていた)であることにつき主張、立証した場合に限り、利益相反行為の無効を主張することができます。

会社は、商法第265条に違反する取引のうち、取締役と会社との間に直接成立すべき取引については、右取締役に対して、その無効を主張することができるが、取締役が会社を代表して自己のためにした会社以外の第三者との間の取引については、右第三者が取締役会の承認を受けていなかつたことについて悪意であるときにかぎり、その無効を主張することができる。(最判昭43年12月25日)

 

取締役会設置会社の場合

取締役会の承認決議
取締役会の承認決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行いますが、当該決議についてて特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができないとされています。

 

例えば、会社と取締役間での不動産売買については、売主(又は買主)となる取締役は取締役会の議決に加わることができません。

 

この取締役は取締役会の定足数の算定の基礎になる取締役の総数及び出席取締役の数に算入されないとされています。

 

取締役会の決議が不要とされた取引
@株主全員の合意がある場合
取締役と会社の取引が株主全員の合意によってなされた場合には、当該取引について取締役会の承認を要しない。(最判昭49年9月26日)

 

A1人株主が取締役である場合
会社と取締役間に商法265条所定の取引(利益相反取引)がなされる場合でも、右取締役が会社の全株式を所有し、会社の営業が実質上右取締役の個人経営のものにすぎないときは、右取引によつて両者の間に実質的に利害相反する関係を生ずるものでなく、当該取引については、取締役会の承認を必要としない。(最判昭45年8月20日)

 

特別利害関係を有する取締役が議決に加わってなされた取締役会決議の効力
次の最高裁判決は、取締役会のケースではなく特別の利害関係を有する理事が加わってされた漁業協同組合の理事会の議決の効力について判示したものですが、取締役会の承認決議にも該当すると思われます。

漁業協同組合の理事会の議決が、当該議決について特別の利害関係を有する理事が加わってされたものであっても、当該理事を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存するときは、その効力は否定されるものではない。(最判平28年1月22日)

 

取締役会の議長になることの可否
特別利害関係を有するため議決に加わることのできない取締役が、当該議題の審議に際して、議長になることができるかどうか問題になります。
議長になることができるという見解もありますが、否定的に解するのが通説となっています。
最高裁の判例ではありませんが、次の判例が参考になります。

特別利害関係のある取締役は、取締役会の出席権がないとし、さらに原則として会議体の議長は当該会議体の構成員が務めるべきであるし、取締役会の議事を主宰してその進行にあたる議長の権限行使は、審議の過程全体に影響を及ぼしかねず、その態様いかんによっては、不公正な議事を導き出す可能性も否定できないのであるから、特別利害関係人として取締役会の構成員から除外される代表取締役は、当該議案に関し、議長としての権限も当然に喪失するものと見るべきである。(東京高判平8月2月8日)

 

取締役会議事録の作成
取締役会の開催したときはその議事につき、取締役会議事録を作成しなければなりません。
また、当該利益相反行為について不動産登記を申請する場合、登記原因について第三者が承諾したことを証する情報として取締役会議事録を提出する必要があります。

 

議事録が書面により作成したときは、出席取締役および出席監査役はこれに署名するか、又は記名押印しなければなりません。

 

監査役は取締役会に出席して必要があれば意見を述べなければならないとされていますが、会計限定監査役(定款で監査権限の範囲を会計に関するものに限定された監査役)は取締役会に出席する義務はありません。

 

ただし、会計限定監査役が任意に取締役会に出席したときは、取締役会議事録に署名又は記名押印する義務があります。

 

会社法上では、出席取締役等が署名した場合は押印は必要なく、記名押印する場合でも必ずしも実印で押印する必要はありません。

 

ただし、不動産登記の添付書面の一部として取締役会議事録を提出する場合は、代表取締役は登記所(法務局)に届け出た印鑑(会社実印)、その他の取締役及び監査役は市町村に登録している個人の印鑑(個人実印)で押印しなければなりません。

 

又押印した印鑑に係る印鑑証明書を添付する必要があります。
印鑑証明書は作成後3ヶ月以内ものである必要はありません。

 

取締役会を置かない会社の場合

利益相反取引の承認は、株主総会で決議します。
利益相反取引の承認決議は、株主総会の普通決議で足ります。

 

株主総会議事録の作成
株主総会を開催した場合、その議事について議事録の作成が義務づけられていますが、取締役会議事録とは異なり署名又は記名押印義務について法定されていません。

 

一般的には、議長及び出席取締役が署名又は記名押印することが多いと思われます。

 

不動産登記の添付書類として株主総会議事録を提出する場合は、その作成者が記名押印しますが、ここでの作成者とは書面を事実上作成した者という意味ではなく、文書に示された意思表示等の主体である作成名義人という意味であると解されています。

 

登記実務では、作成名義人たる代表取締役が法務局に届け出た印鑑(会社実印)で押印した議事録を提供します。当該印鑑に係る印鑑証明書の添付も必要になります。

 

不動産登記を要する場合の添付書類のまとめ

甲株式会社の代表取締役Aの債務につき、債権者乙銀行のために甲株式会社所有の不動産に抵当権を設定する場合
の抵当権設定登記の申請に必要な添付書類

添付書類
・登記原因証明情報(抵当権設定契約証書等)
・甲株式会社の登記識別情報又は登記済権利証
・甲株式会社代表取締役Aの印鑑証明書(作成後3ヶ月以内のもの)
・甲株式会社及び乙銀行の作成後1ヶ月以内の代表者資格証明書
(※会社法人等番号を申請書に記載した場合は不要)
・利益相反取引を会社が承認したこと証する書面
@取締役会設定会社の場合
・取締役会議事録
・出席取締役及び監査役の印鑑証明書
A取締役会非設置会社の場合
・株主総会議事録
・作成名義人の印鑑証明書

 

 

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