不動産の財産分与
財産分与の法務
離婚した夫婦の一方は他方に対して財産分与の請求をすることができます。
財産分与の具体的内容は、当事者間の協議により決定しますが、当事者間の協議が整わないとき、又は協議することができないときは、当事者は家庭裁判所に対して協議に代る処分(家事調停又は家事審判)を請求することができます。
離婚後の財産分与の請求は、離婚成立から2年経過した後は、請求することができないので注意が必要です。
財産分与の性質
離婚に伴う財産分与は次の性質を有するとされています。
@清算的財産分与
夫婦が婚姻中に築き上げた実質的共有財産を離婚に際し分配清算するといった性質
A扶養的財産分与
離婚後、生活が困窮してしまう配偶者に対する生活扶養料として性質
B慰謝料的財産分与
離婚原因を作った配偶者に対する離婚慰謝料としての性質
財産分与の中心は@の清算的財産分与になります。
清算的財産分与の考え方
夫婦が婚姻期間中に取得した財産は、夫婦が互いに協力することにより取得、形成した財産であり、その名義がどのようになっているかにかかわらず実質的には夫婦の共有財産であるとして、離婚を契機としてそれぞれの財産取得形成に対する貢献度に応じて清算するといった考え方です。
清算的財産分与は、あくまで夫婦共有財産の清算ですので、離婚原因をつくった有責配偶者からも請求することができます。
2分の1ルール
夫婦の実質的共有財産はそれぞれの寄与度に応じて分配されますが、裁判所実務においては、寄与度を均等であると推定される傾向にあり、特段の事情がない限り2分の1ずつ分配するのを原則とします。
2分の1ルールを修正すべき事情
夫婦の一方の特別な努力や能力により高額な資産を形成した場合
高額な財産取得に当たり、夫婦の一方が原資の一部としてその特有財産の多くを出資している場合
清算的財産分与の対象財産
清算的財産分与の対象となる財産は、夫婦が婚姻期間中に取得形成した財産であり、夫婦どちらの名義になっているかは問いません。
婚姻関係が破綻して別居に至った場合、別居後に取得した財産は夫婦が協力して取得形成した財産とはいえないので、財産分与の対象財産にはあたりません。
夫婦の特有財産
婚姻前に取得した財産、婚姻後であっても、贈与や相続により取得した財産など、夫婦の協力により取得したとはいえない財産は清算的財産分与の対象にはなりません。
ただし、財産分与に扶養的要素又は慰謝料的要素を含む場合は、その部分については特有財産を分与の対象財産とすることができます。
財産分与の税務
・財産分与を受けた者に対して、原則として贈与税、所得税が課税されることはありません。
・財産分与した者については、財産分与として金銭を給付した場合には、特に課税されることはありませんが、財産分与として不動産を給付した場合には、譲渡所得税が課税されます。
財産分与を受けた者の課税関係
贈与税
財産分与を受けた者に対しては、原則、贈与税は課税されません。
ただし、財産分与として取得した財産であっても次の場合には贈与税の課税されます。
@その分与に係る財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合における当該過当である部分
A離婚を手段として贈与税若しくは相続税の逋脱を図ると認められる場合における当該離婚により取得した財産
財産分与を受けた不動産の処分
財産分与として給付された不動産を、その後売却する場合、その売却により譲渡益が生じると譲渡所得税が課税されますが、ここでの取得費は財産分与時の時価となります。
また、所有期間の短期(5年以下)・長期(5年超)を判定する場合は財産分与を受けた日からの期間により判定します。
将来の売却に備えて財産分与時の時価を明確にしておくか、財産分与時の時価を算定する客観的資料を保存しておくことが望ましいでしょう。
なお、贈与により取得した不動産を売却する場合の取得費は、贈与した人が当該不動産を購入した価格によります。(贈与者の取得価額を受贈者が引き継ぐことができます。)
不動産取得税
不動産を取得した場合、不動産を取得した者に対して、都道府県が不動産取得税を課税するのを原則としますが、
清算的財産分与として不動産を取得した場合は、多くの都道府県で不動産取得税は課税しない取扱いがなされています。
財産分与であっても扶養的又は慰謝料的要素を含む場合には、その部分については、不動産取得税の課税対象になります。
固定資産税・都市計画税
財産分与として不動産を取得した者は、取得した年の翌年以降毎年、固定資産税が課税されます。
当該不動産が都市計画区域内の市街化区域内にある場合には都市計画税も課税されます。
固定資産税は、毎年1月1日現在の所有者に対して課税されますので、分与を受けた年の固定資産税は分与した者が納付する義務がありますが、協議又は調停で財産分与を決定する場合は、分与を受けた年の固定資産税を日割り計算し、分与後の日数に相当する固定資産税を分与を受けた者が負担する旨の合意をすることも考えられます。
財産分与した者の課税関係
譲渡所得税
財産分与として金銭を給付した場合は、課税問題を生じることはありませんが、財産分与として金銭以外の財産を給付した場合には、譲渡所得税が課税されます。
財産分与として不動産を給付した場合には、当該不動産の譲渡価格から取得費等を控除して譲渡益があれば、その譲渡益に対して所得税が課税されます。
逆に財産分与する不動産が取得時より値下がりして譲渡益がでない場合には、譲渡所得税は課税されません。
ここでの譲渡価格とは、財産分与時の時価を意味します。
また、財産分与する不動産が居住用不動産である場合には、適用要件を満たすことにより最大3,000万円の特別控除が認められます。
この特別控除は、所有期間の長短に関係なく認められます。
登記関係費用
登録免許税
財産分与として不動産を給付した場合、その名義を変更するために登記が必要になります。
登記を受けるには、登録免許税を納付する必要があります。
財産分与による所有権移転登記の登録免許税の額は次のとおりです。
登録免許税の額=不動産の固定資産税評価額×1000分の20
固定資産税評価額1,500万円の不動産を財産分与として給付した場合の登録免許税の額は30万円になります。
登録免許税の負担者
法律上、登録免許税は登記を受ける者が連帯して納付する義務があるとされていますが、最終的に誰が負担するのかは当事者の協議により定めることになります。
ただし、登記慣行では、当該申請により登記記録上利益を得る者(所有権移転登記であれば不動産を取得した者)が登録免許税を負担することになっています。
財産分与の登記
財産分与により不動産を取得した者は登記をする必要があります。
財産分与により不動産を取得した者は、登記を受けることにより第三者に対して不動産を取得したことを主張することができます。(登記の対抗力といいます。)
取得した不動産の権利を保全するために、財産分与後、速やかに登記を行うようにしましょう。
財産分与による所有権移転登記は、分与した者と分与を受けた者が共同して不動産の所在地を管轄する法務局に申請するのを原則としますが、裁判手続により不動産の財産分与がなされた場合には、不動産の登記を命じる判決書等により、分与を受けた者が単独で申請することができます。
共同申請
財産分与した者と分与を受けた者が共同して申請する場合に必要な添付書類は下記の通りです。
添付書類
・登記原因証明情報(離婚協議書、財産分与協議書など)
・分与した者の登記識別情報又は登記済権利証
・分与した者の印鑑証明書(作成後3ヶ月以内のものに限る)
・分与を受けた者の住民票の写し
・固定資産税評価証明書又は評価通知書
・委任状(代理人により申請する場合に必要)
単独申請
財産分与により不動産の登記を命じる判決書等により分与を受けた者が単独で申請することができます。
単独申請の場合に必要な添付書類は下記の通りです。
添付書類
・登記原因証明情報
離婚訴訟に附帯して財産分与を申立てた場合
⇒登記を命じる判決書正本及び確定証明書
離婚調停に附帯して財産分与を申立てた場合
⇒登記手続義務履行条項の記載のある調停調書正本
財産分与の調停を申立てた場合
⇒登記手続義務履行条項の記載のある調停調書正本
財産分与の審判を申立てた場合
⇒登記手続を命じる審判書正本及び確定証明書
・分与を受けた者の住民票の写し
・固定資産税評価証明書又は評価通知書
・委任状(代理人により申請する場合に必要)
単独申請の場合、現登記名義人(分与した者)の登記識別情報及び印鑑証明書の添付は不要です。
登記名義人表示変更登記
共同申請か単独申請かを問わず、分与した者の登記記録上の住所又は氏名が、現在の住所又は氏名と一致しないときは、財産分与により所有権移転登記の前提として登記名義人表示変更登記を申請する必要があります。
分与した者の現在の住所が登記記録上の住所と異なるときは、分与者の住民票の写し等、登記記録上の住所から現住所への移転がわかる分与者の住民票の写し等が必要になります。
離婚後は、元配偶者の住民票を取得することができなくなりますので、特に単独申請の場合には、あらかじめ分与者から住民票を預かっておいた方がよいでしょう。
金融機関の抵当権が設定されている場合の注意点
返済中の住宅ローンを担保するために抵当権が設定されている不動産を財産分与するには、事前に金融機関の承諾を得る必要があります。
登記手続上は、抵当権設定登記がなされている不動産であっても、抵当権者の承諾を得ずに所有権移転登記の申請をすることができますが、各金融機関のローン約款に第三者のために権利を設定したり、譲渡したりする場合には事前に書面による承諾を得なければならないといった担保条項が定められていることがほとんどですので、金融機関の抵当権が設定されている不動産を財産分与する場合には予め金融機関との協議が必要になります。
既に住宅ローンを完済しており抵当権の登記のみが残っている場合は、予め抵当権の登記を抹消しておくのがよいでしょう。
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