居住用不動産の夫婦間贈与について特別受益の見直し

居住用不動産の夫婦間贈与について特別受益の見直し

長期間婚姻している夫婦間の居住用不動産の贈与等の保護

相続法制の大きな改正がなされた、平成30年7月6日に可決成立した民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律で、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産の贈与又は遺贈を行った場合、被相続人は特別受益の持ち戻し免除の意思表示をおこなったものと推定する規定を新設することにより、生存配偶者がより多くの財産を取得することができるようになり、生存配偶者の相続財産形成に対する貢献に報いることや、老後の生活保障に資することが可能な制度改正がなされました。

 

⇒施行期日を定める政令が制定され、2019年7月1日から施行されます。

 

居住用不動産を生前贈与した場合の現行制度の問題点

被相続人が配偶者に居住用不動産を贈与又は遺贈(以下『贈与等』という)した場合、現行制度では、特別受益に該当する贈与等として、持ち戻しの対象となり(遺産の前渡しとみなされる)、配偶者が被相続人の財産の中から最終的に取得する財産の額は贈与等があった場合と、そうでなかった場合とでは、その額に違いがないことになっています。

特別受益による贈与等の持ち戻しとは
被相続人が相続人に対して特別受益に該当する贈与又は遺贈をおこなった場合、相続開始時に当該贈与等を相続開始時に存在する相続財産に組み入れ(特別受益の持ち戻し)、これをみなし相続財産として、これに法定相続分を乗じて相続分を算出し、特別受益を受けた相続人は、これから特別受益の額を控除した額をその相続人の具体的相続分とすることにより、相続人間の衡平を図る制度とされています。

 

しかしながら、被相続人が配偶者に居住用不動産を贈与等する趣旨は、自分が死んだ後の配偶者の生活保障であったり、長年尽くしてくれたことに対する感謝の気持ちであったり、必ずしも当該贈与等が遺産の前渡しの趣旨でおこなわれる訳ではなく、今までの貢献に報いるために行われる(遺産相続とは別枠)ことが多いといわれています。

 

 

具体的事例

・配偶者(被相続人)が他方配偶者に居住用不動産(1000万円)を生前贈与しました。
・相続開始時の被相続人の遺産は預金1000万円だけであり、相続人は配偶者の他に子が1人です。

居住用不動産を生前贈与した場合
居住用不動産の贈与は、特別受益に該当する贈与に当たりますので、持ち戻しを免除する意思表示がなければ、これを相続財産に加算して、具体的相続分を計算します。

 

・みなし相続財産=2000万円
1000万円(預金)+1000万円(居住用不動産、持ち戻し財産)

 

・配偶者の具体的相続分=0円
2000万円×2分の1−1000万円(特別受益)=0円

 

・子の具体的相続分=1000万円
2000万円×2分の1=1000万円

 

居住用不動産を生前贈与しなかった場合
相続財産=2000万円
1000万円(預金)+1000万円(居住用不動産)

 

配偶者の具体的相続分=1000万円
2000万円×2分の1

 

子の具体的相続分=1000万円
2000万円×2分の1=1000万円

このように、居住用不動産を生前に贈与しても、しなくても、配偶者が実質的に受け取る額は1000万円で、被相続人が配偶者に対する長年の貢献に報いる趣旨で居住用不動産を生前贈与したとしてもその思いが相続分に反映されないことになります。

 

現行法でも、被相続人が当該贈与等が遺産の前渡しでない旨の意思表示(持戻し免除の意思表示)をおこなえば、持ち戻しをする必要はないのですが、そのためには被相続人の明示又は黙示の意思表示が必要であるとされています。

 

また、特別受益の持ち戻しについて争いになった場合は、持ち戻しを否定する側が持戻し免除の意思表示があったことを主張立証する必要があります。

 

居住用不動産を贈与した場合の持戻し免除の意思表示の推定規定の新設

長期間婚姻している夫婦間で行った居住用不動産の贈与等を保護し、生存配偶者がより多くの財産を取得することができるように特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定規定が新設されました。

 

婚姻期間が20年以上である夫婦の一方である被相続人が他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地(居住用不動産)を遺贈又は贈与したときは、当該被相続人はその贈与又は遺贈について持戻し免除の意思表示があったものと推定する。

 

婚姻期間20年以上の夫婦間での居住用不動産の贈与等は、原則遺産の前渡しでなく、相続開始時に特別受益として持ち戻す必要がないので、配偶者はより多くの相続財産を取得することができ、配偶者への居住用不動産の贈与等が本来の趣旨に適うものになります。

 

また、その居住の用に供する建物又はその敷地には、平成30年の相続法改正により新設された『配偶者居住権』も含まれます。
配偶者居住権に関してはこちらから

 

配偶者を居住不動産を確保した上で預貯金等の流動資産も相続することが可能になります。

 

具体的事例

婚姻期間20年以上の配偶者が他方配偶者に居住用不動産(1000万円)を生前贈与しました。
相続開始時の被相続人の遺産は預金1000万円だけであり、相続人は配偶者の他に子が1人です。

 

居住用不動産を相続財産に持ち戻す必要がないので、相続開始時の遺産(預金1000万円)を配偶者及び子が法定相続分に従い分割することになります。

 

配偶者の相続分=500万円
配偶者は被相続人の財産から実質1500万円を取得することができます。(生前贈与された居住用不動産1000万円及び遺産分割により取得した預金500万円)

 

子の相続分=500万円

 

また、婚姻期間が20年以上である配偶者の一方が他方に対する居住用不動産の贈与には、税法上の優遇措置があります。(最大で2110万円の贈与税の配偶者控除が認められます。)

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