相続された預貯金債権の仮払い制度
相続された預貯金債権の仮払い制度の創設
平成30年の相続法制の改正により、葬儀費用、医療費、施設入所費用等の支払い、相続人の当面の生活費など、緊急性の高い費用の支弁のための資金需要に応えるために、遺産分割前であっても、相続人が単独で、預貯金債権の払い戻しを受けることを認める制度が創設されました。
この制度は、公布(平成30年7月13日)から1年を超えない範囲以内おいて政令で定める日から施行される予定です。⇒施行期日を定める政令が制定され、2019年7月1日から施行されます。
現行制度
平成28年12月19日最高裁判所大法廷が下した判決により、これまでの預貯金債権は相続開始により当然に共同相続人に法定相続分に応じて分割承継されるといった判例理論を改め、預貯金債権は相続開始により当然に分割されることなく遺産分割の対象財産となる判断したことにより、相続人が単独で法定相続分に相当する額の払い戻しを受けることができなくなりました。
金融機関の対応
もっとも、平成28年の最高裁判決が出される前から、金融機関は、相続人全員の同意等がなければ相続人1人からの法定相続分に応じた払い戻しに応じてこなかったといわれています。
これは、後日遺言の存在や、遺産分割等の成立により預貯金債権全部を相続したとされる他の相続人から払い戻しの請求を受けた場合に被る二重払いのリスクを避けるためといわれています。
ただし、緊急性の高い葬儀費用、医療費等の資金需要に対応するために、費目を限定したうえで、各金融機関の独自のルールに従い、その払い戻しに応じてきたともいわれています。
ともあれ、平成28年の最高裁判決が出されたことにより、法理論的には、遺産分割が成立する前に相続人が単独で預貯金の払い戻しを受けることができなくなりました。
相続された預貯金債権の仮払い制度の創設
平成28年最高裁判決により、遺産分割前に被相続人の預貯金の払い戻しを受けることができなくなった不都合に対応するために、2つの預貯金の仮払い制度を創設しました。
(1)家庭裁判所の保全処分としての仮払い
家庭裁判所は、遺産分割審判又は調停の申立てがあった場合において、債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申し立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときはこの限りではない。
(2)裁判所の判断を経ずに払い戻しを受けることができる制度
・各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始時の債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額(ただし、政令で定めた額を上限とする。)について、単独で払い戻しを受けることができる。
・払い戻しを受けた預貯金債権については、各共同相続人は遺産の一部分割により取得したものとみなされる。
具体的事例
・被相続人のABC銀行に対する預金債権600万円
・相続人子2人(長男及び次男)
・長男は被相続人(亡父)の葬儀費用及び未払いの医療費の支払いに充てるために、ABC銀行に対して預金の仮払いの請求を行った。
長男が単独で仮の払い戻しにより、ABC銀行から受け取ることができる金額=100万円
相続開始時の債権額600万円×1/3×1/2(長男の法定相続分)