贈与契約の取消・解除と贈与税
贈与契約を取消し又は解除すれば贈与契約はなかったこととなり、贈与税を支払わなくてもよい、又は支払い済みの贈与税の還付を受けることができると思われる方もいらっしゃるかと思いますが、贈与契約を取消し、解除した場合でも、税務上はそれとは異なった取扱をすることがあります。
贈与契約成立後の取消し、又は解除をなさる場合には、贈与税の課税関係はどうなるのか、税の専門家である税理士や最寄の税務署に確認してからおこなようにしてください。
贈与契約の取消・解除原因
@未成年者
未成年者が親権者の同意を得ないでおこなった贈与契約は取り消すことができます。
ただし、未成年者が負担付でない贈与の受贈者となる(単純)贈与契約は、未成年者も親権者の同意がなくても、単独で締結することができますので、この場合は、未成年者であることを理由として贈与契約を取り消すことができません。
A成年被後見人
成年被後見人が締結した贈与契約は成年後見人が取り消すことができます。
B被保佐人
被保佐人が保佐人の同意を得ないで、被保佐人が贈与者となる贈与契約または、負担付贈与の受贈者となる贈与契約を締結したときは、保佐人は当該贈与契約を取り消すことができます。
C被補助人
補助開始の審判において、補助人の同意を要する事項として贈与契約が定められている場合において、被補助人が補助人の同意を得ずに、贈与契約を締結したときは、補助人は当該贈与契約を取り消すことができます。
詐欺又は強迫によって贈与契約を締結した者は、当該贈与契約を取り消すことができます。
書面によらない贈与は履行の終わった部分を除き各当事者は贈与契約を取消す(撤回)ことができます。
書面とは
贈与の意思表示自体が書面によっていることを要しないのはもちろん、書面が贈与の当事者間で作成されたこと、又は書面に無償の趣旨の文言が記載されていることも必要なく、書面に贈与がなされたことが確実に看取しうる程度の記載があれば足りる。と判示しています。
(最高裁昭和60・11・29判決)
判例は書面の要件を緩やかに解しています。
履行が終わった部分とは
・不動産贈与契約の場合、引渡し又は登記のどちらか一方を終えると、履行が終わったとされますので、これ以後は、書面によらない不動産贈与契約であっても取消すことはできません。
・書面によらない農地の贈与契約は、農地法の所定の許可があるまでは、取り消すことができるとされています。
夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができます。
婚姻中とは
「婚姻中とは、単に形式的に婚姻が継続していることを言うのではなく、実質的にも婚姻が継続していることを言う」(最高裁昭和42・2・2判決)と判示していますので、離婚届を提出していなくても婚姻関係が実質的に破綻しているときは、夫婦間で締結した贈与契約であっても、取り消すことができません。
当事者の合意によって、はじめから当該贈与契約を無かったものとすることが可能です。
贈与契約が取消・解除された場合の贈与税
贈与契約が取消され又は解除されると、贈与契約は契約締結の時に遡って無かったものとみなされますが、課税実務では必ずしも贈与契約が無かったものとは取扱いませんので、贈与契約を取消し又は、解除する場合は、贈与税の課税関係に注意を要します。
贈与契約が法定取消権又は法定解除権によって取消され、又は解除された場合
贈与契約が法定取消権又は法定解除権によって取消され、解除されたことの申出があった場合に、取消され又は解除されたことが当該贈与に係る財産の名義を贈与者の名義に変更したことその他により確認された場合に限り、その贈与が無かったものとして、更正の請求を認めるとしています。
(名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて通達8、9)
贈与契約が合意解除によって取消され、又は解除された場合
原則
合意解除により贈与契約の取消し、又は解除があったとしても、当該贈与契約に係る財産について贈与税の課税をおこなう
(名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて通達11)
特例
贈与契約が合意により取り消され、又は解除された場合においても、原則として、当該贈与契約に係る財産の価額は、贈与税の課税価格に算入するのであるが、当事者の合意解除による取消し又は解除が次に掲げる事由のいずれにも該当しているときは、税務署長において当該贈与契約に係る財産の価額を贈与税の課税価格に算入することが著しく負担の公平を害する結果となると認める場合に限り、当該贈与はなかったものとして取り扱うことができるものとする。
@贈与契約の取消し又は解除が当該贈与のあった日の属する年分の贈与税の申告書の提出期限までに行われたものであり、かつ、その取消し又は解除されたことが当該贈与に係る財産の名義を変更したこと等により確認できること。
A贈与契約に係る財産が、受贈者によって処分され、若しくは担保物件その他の財産権の目的とされ、又は受贈者の租税その他の債務に関して差押えその他の処分の目的とされていないこと。
B当該贈与契約に係る財産について贈与者又は受贈者が譲渡所得又は非課税貯蓄等に関する所得税その他の租税の申告又は届出をしていないこと。
C当該贈与契約に係る財産の受贈者が当該財産の果実を収受していないこと、又は収受している場合には、その果実を贈与者に引き渡していること。
(名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについての通達の運用4)
不動産贈与契約を合意解除した場合の贈与税の取扱い
@申告期限前に合意解除が行われ、かつ贈与による所有権移転登記を抹消するなど、登記名義を贈与者の名義に戻すなどの一定の要件(上記@からC)を満たせば、贈与契約が無かったものと取扱われ、贈与税が課税されません。
A既に贈与税を申告納付している場合は、贈与契約を合意解除しても、納税した贈与税を返してもらうことはできません。(更正の請求をすることができない)
贈与による所有権移転登記の抹消登記
受贈者名義の登記がなされている場合に、贈与者名義に戻すには、贈与による所有権移転登記の抹消登記を申請する必要があります。
抹消登記は、現在の登記名義人(受贈者)と旧所有者(贈与者)の共同申請によって行います。
所有権移転登記の抹消登記の必要書類
・登記原因証明情報
・現在の登記名義人の登記識別情報又は登記済権利証
・現在の登記名義人の印鑑証明書(作成後3ヶ月以内のもの)
登録免許税
抹消する不動産1個につき1,000円
現在の登記名義人(受贈者)が抵当権等の担保権を設定している場合
所有権移転登記を抹消するには、抵当権者等の承諾が必要となります。
抵当権者等の印鑑証明書付承諾書を添付しなければ、所有権移転登記の抹消登記は受理されません。
抵当権者の承諾を得られない場合は、「真正な登記名義の回復」を登記原因として、現在の登記名義人(受贈者)から旧所有者(贈与者)名義に所有権移転登記をすることができます。
なお、現在の登記名義人(受贈者)が贈与に係る不動産に抵当権等担保権を設定すると、贈与契約を合意解除しても、贈与税の課税から免れることができませんので注意を要します。
真正な登記名義の回復を登記原因とする所有権移転登記の登録免許税
固定資産税課税台帳に登録された不動産の価額×1000分の20
※所有権移転登記の抹消登記よりも登録免許税が高額になります。
お問合せ
愛知県名古屋市を中心に業務を行っていますが、愛知県以外にお住まいの方もご相談・ご依頼承りますので、お気軽にお問合せください。
贈与による所有権移転登記の抹消登記が必要な場合は、ご相談ください。