農地の時効取得と登記手続

農地の取得時効の要件

取得時効の要件を満たすことにより、農地を時効により取得することも可能です。

取得時効の要件
所有の意思をもって、平穏かつ公然に、他人の物を20年以上占有すること
占有開始時において善意・無過失であれば、必要な占有期間が10年以上に短縮されます。

 

所有の意思

所有の意思をもってする占有のことを自主占有と言います。
所有の意思のない占有のことを他主占有と言います。
取得時効が認められるためには、その占有が所有の意思を有する自主占有でなければなりません。

 

所有の意思の有無
占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて外形的客観的に定められるべきものであるとされています。

 

つまり、占有を開始した原因が売買、贈与等による場合は、仮にその契約が無効であったとしても、その占有は所有の意思のある占有(自主占有)とされるのに対し、占有を取得した原因が賃貸借、使用貸借の場合は、その占有は所有の意思のない占有(他主占有)とされます。

 

所有の意思のない占有とは他人に所有権があることを前提として他人の物を占有する場合といえます。

 

農地を売買等により取得するには農地法の許可が必要になりますが、農地法の許可を得ていない場合でも、所有の意思は認められるのでしょうか。

 

次の裁判例が参考になります。

農地の賃借人が所有者から右農地を買い受けその代金を支払つたときは、農地調整法四条所定の都道府県知事の許可又は市町村農地委員会の承認を得るための手続がとられなかつたとしても、買主は、特段の事情のない限り、売買契約が締結されその代金が支払われた時に、民法185条にいう新権原により所有の意思をもつて右農地の占有を始めたものというべきである。(最判昭和52年3月3日)

 

農地を農地以外のものにするために買い受けた者は,農地法5条所定の許可を得るための手続が執られなかったとしても、特段の事情のない限り、代金を支払い農地の引渡しを受けた時に、所有の意思をもって農地の占有を始めたものと解するのが相当である。(最判平成13年10月26日)

 

つまり、農地法の許可を得ていない場合でも、農地の売買契約を締結し、買主が売買代金を支払い農地の引き渡しを受けた場合には、所有の意思をもって占有を開始したといえます。

 

農地の売買契約書はあるかどうか、代金を支払ったことを証する書面(領収書等)があるかどうか

 

占有期間

取得時効が成立するための要件の一つが一定期間占有を継続することです。
占有期間は20年間とされています。
ただし、占有開始時に善意・無過失の場合は10年間の占有継続で足ります。

 

善意無過失とは、占有を開始した時点で、自分が所有者であることを信じ、そのように信じたことに落ち度がないことを言います。

 

農地を10年間の占有で時効取得できるか(善意無過失)

短期時効取得が認められるためには、占有開始時に善意無過失が求められます。
農地の所有者になるには、農地法の許可が必要ですので、農地法の許可を得ていないことが、自分が所有者であることを信じ、そのように信じたことに落ち度がない(善意無過失)といえるかどうかです。

 

これに関して次の裁判例があります。

農地の譲受人が、当該譲渡について必要な農地調整法の許可(現農地法の許可)を受けていないときは、特段の事情のない限り、右農地を占有するにあたってこれを自己の所有と信じても、無過失であったとはいえない。
(最判昭和59年5月25日)

 

農地法の許可を得ていない場合は、有過失と認定されます。
一般的には、農地を時効により取得するには、20年以上占有を継続する必要があります。

 

農地法の許可

時効による農地を取得した場合は、農地法の許可を得ることは必要ありません。
登記申請手続においても農地法の許可書を添付する必要はありません。

 

 

農地の時効取得による所有権移転登記手続

登記申請は登記権利者と登記義務者が共同して申請するのを原則とします。
ただし、時効取得による所有権移転登記手続を命ずる給付判決を得た場合は、判決書を添付することにより登記権利者が単独で申請することができます。

 

登記権利者

農地を時効取得した者

 

前主(被相続人等)が時効取得した場合は、前主名義で時効取得による所有権移転登記、及び現占有者名義の相続登記を申請します。

 

登記義務者

現在の所有権登記名義人

 

登記名義人が死亡している場合
@占有開始前に登記名義人が死亡している場合
現登記名義人の相続人名義の相続登記をする必要があります。

 

A占有開始後に登記名義人が死亡している場合
現登記名義人の相続人名義の相続登記をする必要があります。

 

登記義務者は現登記名義人の相続人全員

 

必要書類(添付書類)

単独申請
判決書(時効による所有権移転登記を命ずる給付判決)
時効取得者の住民票
相続を証する戸籍謄本等(登記名義人に相続が開始している場合)

 

共同申請
報告形式の登記原因証明情報
登記済権利証
印鑑証明書
住民票の写し
相続を証する情報(登記名義人に相続が開始している場合)

 

時効取得による所有権移転登記が申請された場合の法務局と農業委員会の連携

目的
農地法の許可が不要な時効取得を装って、本来名義変更ができない農地法に違反する農地取得による登記申請を防止するため。

 

法務局の対応

登記地目が田又は畑(農地)の土地について、時効による所有権移転登記の申請がなされた場合、法務局は農業委員会にその旨を連絡します。

 

この措置は、共同申請だけでなく判決による単独申請の場合もおこなわれます。

 

農業委員会の対応

法務局から連絡を受けた農業委員会は、当該農地について時効完成の要件を満たしているかどうか調査をします。
時効完成の要件を満たしていないことが明らかになった場合、農業委員会は以下の措置を講じます。

 

登記完了前
農地法に違反している旨(無許可)を法務局及び申請当事者に通知します。
申請当事者に対して当該申請を取下げるように指導します。

 

登記完了後
農地法に違反している旨を都道府県知事に報告します。
申請当事者に対しては、時効による所有権移転登記の抹消登記を申請するように指導します。

 

都道府県知事は申請当事者に対して農地法違反の状況を是正すべき旨を通知します。

 

 

まとめ

・農地を時効により取得した場合は、農地法の許可は不要

 

・農地の時効取得による所有権移転登記の申請をすると、農業委員会の調査が入る

 

・農業委員会の調査は、裁判手続で時効取得が認められた場合であっても例外ではない。

 

・以上のことから、時効取得による所有権移転登記の申請をする場合は、事前に農業委員会に相談するのが望ましい。

 

お問い合わせ

司法書士八木隆事務所は愛知県名古屋市で登記業務を中心に行っている司法書士事務所です。

 

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