共有物分割(共有不動産の解消手続)
共有物分割の法務
共有物分割とは共有不動産の共有関係を解消することをいいます。
共有不動産を分割するには、共有者全員で分割協議を行いますが、協議が整わないとき又は協議ができないときは、裁判所に共有不動産の分割を請求することができます。
共有不動産の共有関係を解消するには、次の3つの方法があります。
またこれらの方法を組み合わせることもできます。
現物分割
AとBが共有する1筆の土地を2筆に分割して、各自が単独で所有する方法
左図では、共有土地である甲土地を甲1土地と甲2土地の2筆に分筆し、分筆後の各土地を共有者が単独で所有することになります。
現物分割を行ったときは、共有物分割による持分移転登記を申請しますが、その前に測量と分筆登記の申請をする必要があります
分筆登記の依頼は、土地家屋調査士にお願いします。
価格賠償
AとBが共有する1筆の土地をAが単独所有することとし、持分価額に相当する金銭をBに支払う方法
甲土地を単独で所有する人が共有関係から離脱する人に対して持分相当額の金銭を支払うことにより共有関係を解消します。
共有関係から離脱する人が有していた持分の登記名義を単独所有することになる人に移転するために、共有物分割による持分移転登記の申請を行います。
代価分割
AとBが共有する1筆の土地を売却し、その売買代金を持分に応じて分配する方法
この場合の登記手続きは、共有者全員持分全部移転登記を申請し登記名義を買主の名義に変更します。
共有者全員またはその数名が、不動産を利用したい場合は、現物分割または、現物分割と価格賠償を組み合わせた方法により、共有者の1人が利用する場合であれば価格賠償により、共有者全員が不動産を利用しないのであれば、代価分割により共有関係を解消することが考えられます。
共有不動産を分割する場合は、いずれの方法であっても不動産登記が必要になります。
共有物分割の税務
共有不動産分割の実質は、共有持分の交換又は売買にあたり、譲渡所得税、不動産取得税が課税されるのを原則としますが、現物分割に関しては非課税の特例があり課税関係が複雑になっています。
共有物分割の際には、これらの課税関係を意識した分割が必要となります。
譲渡所得税
現物分割
共有不動産を現物分割した場合、原則譲渡所得税が課税されますが、次の要件を満たす場合には、譲渡はなかったものとみなされ非課税扱いになります。
所得税法基本通達(33-1-6)
個人が他の者と土地を共有している場合において、その共有に係る一の土地についてその持分に応ずる現物分割があったときには、その分割による土地の譲渡はなかったものとして取り扱う。(昭56直資3-2、直所3-3追加)
また、基本通達33-1-6の注2で「分割されたそれぞれの土地の面積の比と共有持分の割合とが異なる場合であっても、その分割後のそれぞれの土地の価額の比が共有持分の割合におおむね等しいときは、その分割はその共有持分に応ずる現物分割に該当するのであるから留意する。」とされています。
なお、効用を一にしない複数の不動産にまたがって現物分割する場合には、所得税法基本通達33-1-6は適用されないと解されており、固定資産の交換特例が適用されなければ、譲渡所得税が課税されることに注意を要します。
固定資産の交換特例
共有不動産の現物分割は、実質交換にあたりますので、一定の要件を満たせば、固定資産の交換特例が適用され譲渡所得税に関して譲渡はなかったものと取り扱われます。
固定資産の交換特例の適用要件
@交換により譲渡する資産及び取得する資産は、いずれも固定資産であること。
A交換により譲渡する資産及び取得する資産は、いずれも土地と土地、建物と建物のように互いに同じ種類の資産であること。(借地権は土地の種類に含まれます。)
B交換により譲渡する資産は、1年以上所有していたものであること。
C交換により取得する資産は、交換の相手が1年以上所有していたものであり、かつ交換のために取得したものでないこと。
D交換により取得する資産を、譲渡する資産の交換直前の用途と同じ用途に使用すること。
この用途については、次のように区分されます。
土地の場合 宅地、田畑、山林、鉱泉地、池又は沼、牧場又は原野、その他に区分されています。
建物の場合 居住用、店舗又は事務所用、工場用、倉庫用、その他用に区分されています。
E交換により譲渡する資産の時価と取得する資産の時価との差額が、これらの時価のうちいずれか高い方の価額の20%以内であること。
この特例は、交換する固定資産が等価でなくても、その差額がいずれか高い方の20%の相当する金額を超えなければ特例適用の対象になりますが、この差額を調整するために金銭(差額調整金)が相手方に支払われた場合は、この金銭を受け取った側に、差額調整金に対して譲渡所得税が課税されます。
換価分割・価格賠償
換価分割又は価格賠償により共有不動産を分割した場合には、通常の売買の同様に資産の譲渡にあたり、譲渡所得税が課税されます。
不動産取得税
共有物の分割による不動産の取得は、不動産取得税が課税されません。
ただし、当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分の取得については、不動産取得税が課税されます。(地方税法73条の7 2の3号)
よって、換価分割、価格賠償により不動産を分割した場合には、不動産取得税が課税されます、。
また、現物分割であっても分割前に持分比率とは異なる割合で分割取得した場合には不動産取得税が課税されることがあります。
登録免許税
共有物分割による持分移転登記の登録免許税の税率は、一定の要件を満たした場合には1000分の4が、要件を満たさない場合は、1000分の20となります。
1000分の4の税率が適用される場合の登録免許税の計算は、若干複雑になっています。
1000分の4の税率が適用される場合の要件
@当該土地につき、共有物分割による所有権移転登記の申請前に分筆の登記がされていること
A当該登記の申請が、当該分筆登記によって生じた他の土地の全部又は一部についての共有物分割による持分移転登記の申請と同時申請がなされること
上記@及びAの要件を満たす場合、当該分筆前に有していた持分に応じた土地の価額に対応する部分に限り、共有物分割による持分移転登記の登録免許税率が1000分の4となります。
上記@及びAの要件を満たさない場合の共有物分割による持分移転登記の登録免許税率は1000分の20です。
共有物分割の登記
共有不動産の分割協議又は裁判が終了した後、不動産の名義を変更するために登記をすることになります。
登記をすることにより共有物分割の結果を第三者に対しても主張することができます。
現物分割の登記手続
A及びBが各2分の1の割合で共有する1番の土地を1番1と1番2の2筆に分筆し、1番1の土地はAが、1番2の土地はBが単独で所有する旨の共有物分割が成立した場合の登記手続
分筆登記を申請し、その完了後に分筆後の各土地につき持分移転登記の申請をします。
@分筆登記
共有者A及びBが管轄法務局に共同して分筆登記の申請をします。
A共有物分割による持分移転登記
1番1の土地⇒Aが単独所有
A及びBが共同して「B持分全部移転登記」を申請します。
1番2の土地⇒Bが単独所有
A及びBが共同して「A持分全部移転登記」を申請します。
1番1の土地と1番2の土地の持分移転登記は必ずしも当時に申請する必要はありません。
ただし、別個に申請した場合、登録免許税率(1000分の4)の特例が適用されないので注意が必要です。
添付書類
1番1の土地
・登記原因証明情報(共有物分割協議書など)
・Bの登記識別情報又は登記済証
・Bの印鑑証明書(作成後3ヶ月以内のもの)
・Aの住民票の写し等
・固定資産税評価証明書又は固定資産税評価通知書
・委任状(代理人により登記申請する場合)
1番2の土地
・登記原因証明情報(共有物分割協議書など)
・Aの登記識別情報又は登記済証
・Aの印鑑証明書(作成後3ヶ月以内のもの)
・Bの住民票の写し等
・固定資産税評価証明書又は固定資産税評価通知書
・委任状(代理人により登記申請する場合)
価格賠償の登記手続
A及びBが共有する不動産につき、Aが単独所有し、その代償としてBに代償金を支払う旨の共有物分割が成立した場合の登記手続
A及びBが共同して「B持分全部移転登記」を申請します。
添付書類
・登記原因証明情報(共有物分割協議書など)
・Bの登記識別情報又は登記済証
・Bの印鑑証明書(作成後3ヶ月以内のもの)
・Aの住民票の写し等
・固定資産税評価証明書又は固定資産税評価通知書
・委任状(代理人により登記申請する場合)
換価分割の登記手続
A及びBが共有する不動産につき、Cに売却しその代金を分配する旨の共有物分割が成立した場合の登記手続
通常の売買による所有権移転登記の同様、A・B及びCが共同して、「共有者全員持分全部移転登記」を申請します。
添付書類
・登記原因証明情報(共有物分割協議書など)
・A及びBの登記識別情報又は登記済証
・A及びBの印鑑証明書(作成後3ヶ月以内のもの)
・Cの住民票の写し等
・固定資産税評価証明書又は固定資産税評価通知書
・委任状(代理人により登記申請する場合)
共有物分割の登記手続のご依頼・ご相談
司法書士八木隆事務所は愛知県名古屋市で登記業務を中心に行っている司法書士事務所です。
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共有物分割による所有権登記の費用(司法書士報酬及び登録免許税等)
司法書士への報酬(税別) | 登録免許税 | 備考 | |
共有物分割による名義変更の手続(所有権移転登記) | 35,000円 | 贈与不動産の固定資産税評価額の2%(原則) | |
住所変更登記 | 8,000円 | 不動産の個数×1000円 | 登記名義人の登記簿上の住所と現住所が異なるときに必要な手続です。 |
不動産の所有権を移転する登記(名義変更)の登録免許税は、固定資産税評価額を基に算出します。
登録免許税を含めた見積もりのご依頼は、対象不動産の固定資産税評価額が分かる資料をご用意ください。
固定資産税評価証明書(市町村役場で取得できます。)又は固定資産の課税明細書(市町村から4月頃に送られてきます。)等により、固定資産税評価額が分かります。
お見積りのご依頼はお電話又はメールでお願いします。