相続させる旨の遺言|名古屋の司法書士八木隆事務所

相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)とは

相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)

遺言による相続分の指定

被相続人は、遺言で共同相続人の相続分を定めることができます。また、相続分を定めることを第三者に委託することもできます。相続分の指定は必ず遺言でしなければその効力を生じません。

 

民法の規定では遺言による指定相続分が原則であり、相続分を指定した遺言がないときは、民法で定める法定相続分に従うとされています。

 

相続分の指定は遺留分を侵害することができません。しかしながら、遺留分を侵害する相続分の指定を内容とする遺言が直ちに無効となるのではなく、遺留分減殺請求の対象となると解されています。

 

つまり相続分の指定により、遺留分を侵害された相続人が遺留分減殺請求権を行使しなければ遺留分を侵害する相続分の指定も効力を有するということとなります。

 

一部の相続人についてのみの相続分の指定

被相続人が共同相続人中の1人もしくは数人の相続分のみ定め、またはこれを第三者に定めさせたときは、他の相続人の相続分は法定相続分の定めに従うこととなります。

 

相続人Aの相続分を5分の2と指定した場合の他の相続人の相続分

ケース1 共同相続人が子A、BおよびCである場合
⇒BおよびCの相続分 10分の3

 

ケース2 共同相続人が配偶者Y、子AおよびBの場合
A説 配偶者の法定相続分に影響を及ぼさない説
   配偶者Yの相続分   2分の1
   子Bの相続分    10分の1
⇒配偶者Yは法定相続分である2分の1の相続分が確保され、子Bはその残余の10分の1となる。

 

B説 配偶者の法定相続分にも影響を及ぼす説
   配偶者Yの相続分  10分の3
   子Bの相続分    10分の3
⇒Aの指定相続分の残余である5分の3を配偶者Y2分の1、子B2分の1の法定相続分で分ける。

 

上記のように、一部の相続人の相続分のみを指定すると、配偶者の相続分に関して解釈によりその相続分が異なってきます。

 

相続人間での紛争を予防するためには、相続分を指定する場合は、相続人全員の相続分を指定することの望ましいと思われます。

 

相続分の指定と相続登記

共同相続人は指定された相続分に従って、遺産分割協議をおこなうこととなります。

 

遺産分割協議の結果、単独もしくは共有で相続不動産を取得した相続人名義で「年月日相続」を登記原因として、相続登記を申請します。

 

この場合、遺産分割協議書を添付すれば相続分の指定を内容とする遺言書の添付は必要ありません。

 

遺産分割前に指定相続分で共同相続登記をすることができます。

 

指定相続分で共同相続登記をするには、法定相続分による共同相続登記で求められる添付書面のほかに相続分の指定がなされた内容の遺言書を添付する必要があります。

 

遺言による遺産分割方法の指定

本来の遺産分割方法の指定

被相続人は遺言で遺産分割の方法を指定することができます。
遺産分割の方法の指定は遺言で行わないとその効力は生じません。

 

本来の遺産分割方法の指定とは、現物分割、換価分割、代償分割などのいずれの分割方法で遺産を分割するかの指示であり、遺産分割協議によって確定的に遺産の帰属が決定されと解されています。

 

@現物分割の指定

第○条 遺言者は、その遺産について、遺産分割協議において次のとおり分割するよう分割の方法を指定する。
1 すべての不動産は長男Aが取得する。
2 上記1以外のその他の遺産は、次男Bが取得する。

 

A代償分割の指定

第○条 遺言者は、その遺産について、遺産分割協議において次のとおり分割するよう分割の方法を指定する。
1 遺言者の遺産の全部を、長男Aが取得する。
2 Aは、上記1の遺産を取得する代償として、次男Bに金何円を支払う。

 

B清算処分分割(換価分割)の指定

第○条 遺言者は、遺産分割協議において遺言者の財産のすべてを換価し、その換価金から遺言者の一切の債務を弁済した残金を、次のとおり分配するよう分割の方法を指定する。
      長男A3分の1
      次男B3分の1
      三男C3分の1
第○条 遺言者は、本遺言の遺言執行執行者として、次の者を指定する。
      X

 
上記の分割方法に従って、不動産を売却、換価するに際し、買主名義に所有権の移転登記を申請する前提として、共同相続人名義の相続登記を行わなければなりません。被相続人名義から直接買主名義への所有権移転登記は認められていません。

 

遺言執行者がいる場合は、遺言執行者が相続人を代理して相続登記の申請をします。

 

 

相続させる旨の遺言

 
遺言者Xの願い

1、自宅は長男Aに継いでもらいたい。
2、姉Cには大変お世話になったので、感謝の意味をこめてアパートをあげたい。
3、妻Yと次男Bにはその他の財産を半分づつあげたい。

遺言者が上記のような願いをかなえるためには、下記のような遺言書を作成します。

 

遺言書記載例

第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産(甲)を長男Aに相続させる。
     (不動産の表示省略)
⇒特定の相続人に特定の不動産を取得させたいときは、「相続させる」という文言を用いる。

 

第2条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産(乙)を遺言者の姉C(年月日生)に遺贈する
     (不動産の表示省略)
⇒相続人以外の者に特定の不動産を取得させたいときは、「遺贈する」という文言を用いる。

 

第3条 第1条および前条に記載した財産以外のすべての財産を妻および次男に各2分の1の割合で相続させる。

 

第4条 遺言者は、本遺言の遺言執行執行者として、次の者を指定する。
     ○○市○○町○番○号
     Z(年月日生)

 

登記手続き

  長男Aの相続登記 姉Cの遺贈の登記
申請人 長男Aの単独申請

姉Cと遺言執行者Zの共同申請
(遺言執行者が就任しなかった場合は、姉Cと相続人全員(Y、A、B)の共同申請)

添付書類

遺言書
遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本等
長男Aの戸籍謄本
長男Aの住民票の写し等

遺言書
遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本等
登記識別情報(登記済証)
遺言執行者Zの印鑑証明書
姉Cの住民票の写し等

登録免許税 固定資産税評価額の1000分の4 固定資産税評価額の1000分の20

 

特定の相続人に特定の不動産を相続させたい場合には、「特定の相続人に特定の不動産を相続させる旨」の遺言を作成します。

 

最高裁の判例によりますと、「当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情がない限り、何らの行為を要せずして被相続人の死亡のときに直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。」と判示しています。(最判平3・4・19)

 

相続させる旨の遺言の特徴

遺産分割協議をおこなうことなく、当該相続人は単独で相続登記の申請をすることができる。

(なお、被相続人のすべての財産ついて相続させる旨の遺言がなされていない場合は、遺言において触れられていない遺産は、相続人の共有となりますので、これを解消し、特定の相続人の単独所有とするためには相続人全員で遺産分割協議をおこなう必要があります。)

 

遺言執行者が指定されていても相続登記は当該相続人が申請することができる。

相続させる旨の遺言による相続登記に関しては遺言執行者は登記申請する権限も義務もないとされています。

 

相続登記を司法書士に依頼する場合、委任状は当該相続人が作成した委任状が必要であり、遺言執行者名義の委任状では相続登記の申請を受任できないこととなります。

 

相続させるとされた相続人が遺言者より先に死亡した場合の相続させる旨の遺言の効力

事例
遺言者Xが子Aに自己が所有する甲不動産を相続させる旨の遺言書を作成しました。

 

しかし、Aが遺言者Xよりも先に死亡してしまいました。

 

遺言者Xはその後、遺言書を作成しなおすことなく死亡してしまいました。

 

Aには子Cがいます。

 

Cの母であるBは「代襲相続に関する規定を適用してCが甲不動産を相続すべきである」と主張しているのに対し、遺言者Xの次男は「遺言書には孫のCに相続させることについて何ら記載されていないし、遺言者よりAが先に死んでしまった以上、Aに関する遺言条項は無効である」と主張しています。

 

Aに甲不動産を相続させる旨のXが作成した遺言の効力はどうなるのでしょうか。

 

遺言者Xが死亡し、相続が開始した場合、遺言者Xの死亡より前に相続させるとされたAが死亡している以上、当該遺言は効力を生じないとする考え方と、代襲相続の規定を類推適用してAの子Cが甲不動産を相続するという考え方が対立していましたが、最高裁は「相続させる旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該相続させる旨の遺言にかかる条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。」と判示しました。(最判平23・2・22)

 

予備的遺言がある相続

最高裁の判例によると、甲不動産をAに相続させる旨の遺言条項は無効となり、甲不動産は共同相続人の共有となります。

 

甲不動産の取得者は相続人全員による遺産分割協議によって決定することとなります。(上図、予備的遺言がない場合)

 

なお、CがCに甲不動産を相続させる旨の意思を遺言者Xが有していたとみるべき特段の事情があることを主張立証することができれば、Cは甲不動産を当該遺言により取得でる可能性が残されます。

 

 

 

 

遺言者Xが自分より先にAが死亡した場合は、孫であるCに甲不動産を相続させたい場合には、下記のような遺言書を作成すべきです。

 

遺言書条項例(予備的遺言)

第○条 遺言者は、遺言者が所有する下記不動産(不動産の表示省略)を長男Aに相続させる。
2 遺言者の死亡以前に長男Aが死亡した場合は、前項記載の不動産は孫C(長男Aの子)に相続させる。

上記のような遺言を予備的遺言といいます。

 

予備的記載のない遺言でも相続させる者とされた推定相続人が死亡した後に別の推定相続人に相続させる旨の遺言を改めて作成すれば目的を達することができます。

 

ただ、@新たに公正証書遺言を作成する場合は、手数料がかかりますし、A新たな遺言を作成する時点で認知症などによる遺言能力の欠如により遺言を有効に行うことができなくなっているおそれがあります。

 

特にAの場合ですと、遺言者の意思が実現できなくなってしまいます。

 

相続登記に必要な書類(相続させる旨の遺言による相続登記)
・被相続人(遺言者)の死亡の記載のある戸籍謄本等
・当該相続人の戸籍謄本(被相続人が死亡した日以後のもの)
・遺言書(公正証書遺言以外の方式の遺言の場合家庭裁判所の検認済みのもの)
・当該相続人の住民票の写し

 

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