債務と相続

相続債務とは

被相続人が生前負担していた借金や未払いの税金などのことであり、消極財産またはマイナス財産といわれることもあります。

 

相続財産に債務がある場合

相続債務の承継
相続人が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきである
(最高裁昭和34・6・19判決)

たとえば、相続人が子3人で、被相続人が残した債務が1500万円の場合、各相続人は500万円の債務を負担することになります。

 

遺産分割協議で相続債務を分割できるか

「遺産分割の対象となるものは、被相続人の有していた積極財産だけであり、被相続人の負担していた消極財産たる金銭債務は、相続開始と同時に共同相続人にその相続分に応じて当然分割承継されるものであり、遺産分割によって分配されるものではない。」
(東京高裁昭和37・4・13決定)

 

上記の判例で示されたように、遺産分割協議で、法定相続分とは異なる相続債務の負担割合を定めたり、特定の相続人が全ての相続債務を承継することを定めたりしたとしても、債権者に対しては効力を有しません。

 

もっとも、債権者がその遺産分割協議による相続債務の分割を承諾すれば、効力を有することになります。

 

この場合、相続人全員と債権者との間で、免責的債務引受契約を締結することになります。

 

実務的には、住宅ローン等(相続債務)を担保するために抵当権が設定されている不動産を取得した相続人が、当該住宅ローン等(相続債務)を全て引き受けることを債権者(金融機関)は承諾しているようです。

 

遺言と相続債務

遺言によって処分することができるのは積極財産だけであり、債務の負担に関して遺言書に記載したとしても当然には効力を有しません。

 

債権者は遺言の記載に拘束されることなく、各相続人に法定相続分相当額の支払いを請求することもできますし、遺言書の記載を承諾して、遺言所の記載とおりに請求することも可能です。

 

遺言者は遺言書に債務の負担に関して記載することができるが、その効力が生じるためには債権者の承諾が必要になるということです。

 

債務負担に関する遺言書の記載

遺言書記載例1

第○条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産を長男○○に相続させる。ただし、相続開始時に債務が存在する場合には、その債務の一切を長男○○に承継させる。

上記のような遺言書は、特定の相続人に積極財産および消極財産の全てを相続させようとする被相続人の意思が明確です。

 

遺言書記載例2

第○条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産を長男○○に相続させる。

上記の遺言書の解釈ですが、積極財産の全てを長男○○に相続させ、消極財産は法定相続分に応じて各相続人が負担するという意味なのか、消極財産を含めた一切の財産を長男○○に相続させるという意味なのか、その解釈に疑義が生じます。

 

最高裁は「相続人のうちの1人に対して相続財産の全部を相続させる旨の遺言がされた場合、相続債務については当該相続人に全てを相続させる意思が無いことが明らかであるなどの特段の事情がない限り、当該相続人に相続債務全て承継させると解するのが相当である」と判示しました。
(最高裁平成21・3・24判決)

 

もちろん債権者はその遺言内容に拘束されませんので、当該遺言の定めは、あくまでも相続人間の内部的負担割合の定めたものに留まりますが、債権者としては、法定相続分に応じた負担額を、各相続人に対して請求するか、当該遺言を承諾して、全ての債務を負担・承継するとされた相続人に対して、全額請求するか選択することができます。

 

債権者が当該遺言を承諾して、全ての相続債務を承継するとされた相続人に対して、全額請求すれば問題ありませんが、債権者が当該遺言を承諾せず、法定相続分に応じて各相続人に請求し、相続人が弁済した場合の事後の対応が問題となります。

 

この場合、弁済した相続人は、遺言によって全ての債務を負担・承継させるとされた相続人に対して求償することができるかどうかが問題となります。

 

何ら相続財産を取得できないのに、法定相続分に応じて負担した相続債務を弁済した場合、全ての積極財産を取得した相続人に対して、何ら請求できないのは、明らかに不公平といえます。

 

ただし、遺留分を侵害されている場合は、遺留分を限度として相続財産を取り戻すことができます。

 

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