閉鎖的中小企業の株主総会の招集手続

株主が1人又は親族・知人の数人といった同族経営である中小企業は、株主総会の決議が必要な事項を決定する場合でも株主総会を開催せずにあたかも株主総会を開催したかのように株主総会議事録のみを作成しているケースが多いのではないでしょうか。

 

株主総会の決議が必要な事項であっても、株主全員の利害が一致していれば、株主総会を適法に開催せずに決定したとしても、問題が顕在化することはないのかも知れません。

 

しかしながら、特定の株主の利益となる事柄や、反対に特定の株主の不利益になる事柄を決定する場合、すなわち株主間で利害の対立が生じる可能性がある事柄で、それを決定するためには株主総会の決議が必要であるにもかかわらず、株主総会を開催せずに決定してしまえば、後日紛争に発展することは十分に考えられます。

 

紛争の火種を残すことは会社経営にとって好ましいことではありません。

 

同族会社の経営者の多くは、株主総会の開催には、それなりの手間暇がかかるので面倒であるといったイメージをお持ちではないでしょうか。

 

確かに、会社法が定める原則的な株主総会開催のための招集手続は煩雑ですが、閉鎖的な中小企業が開催しやすいように簡略化した手続が用意されています。

 

この簡略化された招集手続を履践すれば、わりと簡単に株主総会を開催することができます。

 

会社が会社法で定められた手続に従った経営を行うことはコンプライアンスの観点からも重要です。
法令遵守はけして大企業だけに課されたものではありません。

 

以下で簡略化された株主総会開催のための招集手続を説明しますので、是非参考にして株主総会を開催してみてください。

 

まずは、原則的な株主総会の招集手続を説明した後に、簡略的な招集手続を説明します。

原則的な株主総会の招集手続

取締役会設置会社であるか否かにより手続方法が異なります。

 

株主総会の招集決定

取締役会設定会社の場合
取締役会の決議により次の事項を決定します。

@開催日時・開催場所
A会議の目的事項(議題)
B総会に出席しない株主に、書面による議決権行使を認めるときはその旨
C総会に出席しない株主に、電磁的方法による議決権行使を認めるときはその旨
Dその他法務省令で定める事項
・総会の開催場所が過去に開催された総会のいずれの場所とも著しく離れている場合は、その場所で開催することを決定した理由
・開催日が前事業年度に係る定時株主総会の日と応答する日と著しく離れた日である場合は、その日を開催日に決定した理由 等

 

取締役会非設置会社の場合
株主総会の招集を決定するには、取締役が上記@〜D事項を決定します。
取締役が数名いる場合は、取締役の過半数をもって決定します。

 

招集通知の発送時期

取締役会設置会社の場合
取締役は、株主総会の日の2週間前までに議決権を有する株主に対して招集通知を発送しなければなりません。

 

例外として非公開会社の場合は、総会日の1週間前までに招集通知を発送すればよいことになっています。
ただし、書面又は電磁的方法による議決権の行使を認める場合は原則通り、2週間前までに招集通知を発送する必要があります。

 

取締役会非設置会社の場合
取締役は、株主総会の日の1週間前までに招集通知を発送しなければなりません。
なお、定款で定めることにより1週間より短い期間を定めることができます。

 

ただし、書面又は電磁的方法による議決権の行使を認める場合は総会日の2週間前までに招集通知を発送する必要があります。

 

招集通知の発送方法

取締役会設置会社の場合
書面又は電磁的方法により通知しなければなりません。
※電磁的方法(インターネット)により通知する場合は、株主の承諾が必要になります。

 

取締役会非設定会社の場合
書面又は電磁的方法により通知する必要はなく、電話、電子メール等により通知することもできます。
ただし、書面又は電磁的方法により議決権の行使を認める場合は、書面又は電磁的方法により通知する必要があります。

 

招集通知の発送先

会社が株主に対しておこなう通知又は催告は、株主名簿に記載又は記録した住所(株主が別に会社からの通知等を受ける場所又は連絡先を申出ている場合はその場所)に発すればよいことになっています。

 

株主総会の招集通知も株主名簿に記載又は記録された住所に発送すれば会社は免責されます。

 

株主が会社に届け出た住所から移転したにもかかわらず、その旨を会社に届け出なかったため、招集通知が到達せず株主総会に出席する機会を失ったとしてもその不利益は株主が負うことになります。

 

招集通知の内容

取締役会設置会社の場合
招集通知には、取締役会の決議により決定した事項を記載又は記録する必要があります。

@開催日時・開催場所
A会議の目的事項(議題)
B総会に出席しない株主に、書面による議決権行使を認めるときはその旨
C総会に出席しない株主に、電磁的方法による議決権行使を認めるときはその旨
Dその他法務省令で定める事項

 

取締役会非設置会社の場合
取締役会非設置会社の場合は、書面又は電磁的方法により通知する必要がないことから決定事項を記載又は記録する必要はありません。
ただし、書面又は電磁的方法により議決権の行使を認める場合は、書面又は電磁的方法により通知しなければなりませんので、決定事項を記載又は記録する必要があります。

 

計算書類等の送付

取締役会設置会社の場合
招集する株主総会が定時株主総会の場合は、招集の通知に当たり、計算書類、事業報告、監査報告を送付する必要があります。

 

取締役会非設置会社の場合
招集通知に当たり、計算書類、事業報告、監査報告(監査役設置会社の場合)を送付する必要はありません。

 

株主総会の招集手続の簡略化

原則的な招集手続が省略できる場合とは、議決権を行使できる株主全員があらかじめ同意している場合です。

 

よって、同意しない株主がいることが明らかな場合には、原則的は方法により株主総会を招集して株主総会を開催する必要があります。

招集手続の省略

議決権を行使することができる株主全員の同意があれば、招集通知を省略して株主総会を開催することができます。
ただし、書面又は電磁的方法により議決権の行使を認める旨の決定をした場合は、招集手続を省略することができません。

 

非公開会社である取締役会設置会社の場合、取締役会で招集を決定した後、総会日の1週間前までに計算書類等を添付して書面により収集通知を株主に発送しなければなりませんが、招集手続の省略について株主全員の同意を得れば、1週間前に通知を発送する必要もありませんし、計算書類等を添付する必要もありませんし、招集通知を発送すること自体を省略することができます。

 

この同意は、特別の方式が定められていませんので、口頭による同意でも法律上有効ですが、招集手続が適法に行われたことをあきらかにするためには、書面による同意を得たほうがいいでしょう。

 

同意した株主が総会に出席しなかったとしても法律及び定款で定めた定足数を満たせば株主総会は適法に成立します。

 

全員出席総会

株主全員が株主総会の開催に同意して出席すれば、株主総会を適法に開催することができます。

 

この全員出席総会の適法性については、会社法上の明文規定があるわけではなく判例上認められたものです。

 

株主全員が出席した株主総会は、取締役会等の招集決定がなくても、適法に成立します。

 

ただし、取締役等役員を関与させずに開催した株主総会は、学説上、株主総会決議取消事由に該当するという見解がありますので、取締役等をまったく関与させずに株主総会を開催するのは避けた方がいいでしょう。

 

書面決議(株主総会の開催の省略)

取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案した場合において、当該提案につき株主の全員が書面又は電磁的方法により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされるものです。

 

株主全員の同意が必要ですので、1人でも同意しない株主がいる場合は、当該提案は可決する旨の株主総会の決議があったものとはみなされません。

 

書面決議の場合、株主総会は開催されませんが、株主総会議事録を作成する必要があります。

 

 

ブログ執筆者

○司法書士 八木 隆
○名古屋市瑞穂区白砂町二丁目9番地 瑞穂ハイツ403
○TEL 052-848-8033

 

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