借地上の建物に抵当権を設定することを禁止する特約

借地上の建物に抵当権を設定することを禁止する特約

借地上の建物に抵当権を設定することを禁止する特約は有効か?

借地上の建物の所有者が、当該建物に抵当権を設定することを禁止する特約を定めることは可能でしょうか。

 

借地上の建物の抵当権設定について
土地の利用権が所有権の場合、土地(所有権)と建物に抵当権(共同抵当)を設定することが一般的ですが、、土地の利用権が借地権の場合、通常借地権には抵当権を設定することができないので、この場合は建物のみに抵当権を設定することになります。

 

借地権と土地賃借権の違い
建物所有を目的として地上権を設定した場合又は建物所有を目的として土地賃貸借契約を締結した場合の土地利用権を借地権といいます。

 

借地権は建物を所有することを目的と土地利用権ですので、駐車場、資材置場などのための土地の賃借権は借地権ではなく、借地借家法も適用されません。(民法の賃貸借の規定が適用されます。)

 

借地権は土地賃借権であることがほとんどで、ごく稀にマンション所有を目的に地上権が設定されている場合があります。

 

先ほど、借地権は通常抵当権を設定することができないといいましたが、厳密には、土地賃借権である借地権は抵当権を設定することができないというのが正しく、借地権が地上権の場合には、借地権に抵当権を設定することが可能です。

 

民法369条2項 
地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。

 

抵当権の効力の及ぶ範囲
借地権(土地賃借権である借地権のことをいいます。以下同じ)には抵当権を設定することはできないのですが、借地上の建物に設定した抵当権の効力は従たる権利である借地権にも及ぶとされています。

 

土地賃借人が該土地上に所有する建物について抵当権を設定した場合には、原則として、右抵当権の効力は当該土地の賃借権に及び、右建物の競落人と賃借人との関係においては、右建物の所有権とともに土地の賃借権も競落人に移転するものと解するのが相当である。(最高裁判決昭和40年5月4日)

 

借地権を目的に担保権を設定したい場合は、質権を設定する方法がありますが、上記のとおり、借地上の建物に設定した抵当権の効力は借地権に及びますので、一般的には、建物のみに抵当権を設定しておけば安心であるといえるでしょう。

 

なお、建物の抵当権設定の他に、借地契約が解除された場合の敷金返還請求権、建物が火災により焼失した場合の火災保険金請求権に質権を設定することがあります。

 

建物に抵当権を設定することを禁止する特約の有効性
抵当権が実行されると、競落人は建物所有権及び借地権を取得することになるので、それを望まない賃貸人はあらかじめ借地権者が所有建物に抵当権を設定することを禁止する特約を締結したいと考えるのには理由があります。

 

しかしながら、本来借地上の建物に抵当権を設定するのに賃貸人の承諾は要件となっておらず、担保を提供することにより融資を受ける借地権者の利益を制限することになり、借地権者の利益を保護しようとする借地借家法の趣旨にも反することとなり、このような借地権者が所有建物に抵当権を設定することを禁止する特約は無効と解するのが有力になっています。

 

地裁判決ですが、建物所有を目的とする土地賃貸借契約(借地契約)における建物への抵当権設定禁止特約を無効であるとした裁判例があります。(浦和地裁判決昭和60年9月30日)

 

よって、賃貸人の承諾を得ることなく、借地上の建物に抵当権を設定することを禁止し、無断で抵当権を設定した場合には、借地契約を解除することができる旨の特約は無効になる可能性が高いといえます。

 

賃貸人が自分の知らないうちに借地上の建物に抵当権を設定されることを望まないのであれば、借地上の建物に抵当権を設定する場合には、予め賃貸人にその旨の通知を義務づける旨の手続条項にとどめておくべきでしょう。

 

 

ブログ執筆者

○司法書士 八木 隆
○名古屋市瑞穂区白砂町二丁目9番地 瑞穂ハイツ403
○TEL 052-848-8033

 

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