成年後見人により相続放棄|名古屋の司法書士ブログ

成年後見人による相続放棄|名古屋の司法書士ブログ

共同相続人の一人である息子が成年後見人として、他の共同相続人である被後見人の母親を代理して相続放棄することができるか

今回のテーマは「共同相続人の一人である息子が成年後見人として、共同相続人である被後見人の母親を代理して相続放棄することができるか」です。

 

成年被後見人が相続放棄をするには、成年後見人が成年被後見人を代理して行うのが原則です。

 

※成年後見の申し立てについてこちら 法定後見申し立て

 

ただし、ある行為が成年後見人にとっては利益となり、成年被後見人にとっては不利益となり得る行為(利益相反行為)は、特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てなければならないとされています。

 

つまり、利益相反行為に該当する契約等を成年後見人は代理して行うことができず、家庭裁判所が選任した特別代理人が成年被後見人を代理して行うことになります。

 

ただし、成年後見監督人が選任されている場合は、その者が成年被後見人を代理することになります。

 

相続放棄は、相続人の一人が相続放棄することにより相続権を失うのに対し、それにより他の相続人の相続分は増加しますので、相続人間で利益、不利益が生じる可能性のある行為といえます。

 

では、今回のテーマである、
共同相続人である息子が成年後見人として、成年被後見人である母を代理して相続放棄することは利益相反行為に該当しないのでしょうか。

 

これに関しては、以下の最高裁判所の判例が実務の指針となります。

 

『共同相続人の一人が他の共同相続人の全部又は一部の者の後見をしている場合において、後見人が被後見人全員を代理してする相続の放棄は、後見人みずからが相続の放棄をしたのちにされたか、又はこれと同時にされたときは、民法860条によつて準用される同法826条にいう利益相反行為にあたらない。』(最判昭和53・2・24)

 

上記最高裁の結論をあてはめると、息子が自分自身の相続放棄を行った後に、成年後見人として成年被後見人である母親の相続放棄を行った場合又は、自分自身の相続放棄と母親の相続放棄を同時に行った場合は、利益相反行為には該当せず、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要がないことになります。

 

息子が自分自身の相続は放棄せずに、成年後見人として母親の相続のみを放棄することはできず、この場合は家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てなければならないことになります。

 

成年後見人が成年被後見人を代理して契約等をおこなうには、成年被後見人の居住用不動産を処分する場合を除き、法律上は、家庭裁判所の許可を得ることを要しません。

 

相続放棄に関しても、事前に家庭裁判所の許可を得なければならない旨の法律上の規定はありません。

 

ただし、成年後見実務においては、成年被後見人の財産に大きな変動を生じる行為については、家庭裁判所と事前協議を行い内諾を得ることが一般的です。

 

相続放棄も、遺産の額にもよりますが、成年被後見人の財産に大きな変動を生じる行為といえますので、相続放棄を行うときは、事前に家庭裁判所の内諾を得ておくのが良いでしょう。

 

ただし、相続放棄は、3ヶ月以内の申述期限がありますので、迅速な対応が必要になります。
とくに債務超過を理由として相続放棄を検討している場合は、申述期限を徒過してしまうと成年被後見人に債務を負担させることになってしまい、不利益を与えてしまうことになってしまいます。

 

3ヶ月以内に相続放棄の申述ができそうでないときは、申述期限伸長を申し立てることが可能です。

 

ブログ執筆者

○司法書士 八木 隆
○名古屋市瑞穂区白砂町二丁目9番地 瑞穂ハイツ403
○TEL 052-848-8033

 

不動産登記手続、相続手続、会社法人登記手続、裁判所提出書類の作成業務等を行っています。
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