自筆証書遺言制度の改正|名古屋の司法書士ブログ

自筆証書遺言制度の改正|名古屋の司法書士ブログ

自筆証書遺言制度が改正されました(平成30年7月6日改正)

今般、国会に提出されていた「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」が衆参両議院で可決・成立しました。(平成30年7月16日成立)

 

今回の改正は、相続開始時の生存配偶者の居住権を如何にして保護すべきかに主眼が置かれており、新聞、テレビ等メディアでも「配偶者の居住権新設」「配偶者の遺産相続拡大」等の見出しで相続法改正ついて取り上げられていたこともあり、相続法の改正があったこと自体はご存じ方も多いのではないでしょうか。

 

今回の改正では、配偶者相続権を拡充した他に、遺言制度についても改正されているのですが、このことに関してはあまり報道されていないので、遺言制度の改正は、はじめて知ったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

今回の遺言制度改正では、遺言の方式の一つである自筆証書遺言について改正されました。

 

今回テーマは『自筆証書遺言制度の改正』として、自筆証書遺言制度がどのように変わったのかわかりやすくお話ししたいと思います。

自筆証書遺言の方式の緩和

まずは現行の自筆証書遺言についておさらいしましょう。

・自筆証書遺言は、遺言者が全文、日付及び氏名を自署し押印しなければならない。

 

・加除訂正する場合も民法で定めた方式に従わなければならない。(かなり面倒くさいです)

 

このように、自筆証書遺言は、紙とペンさえあればいつでもどこでも簡単に作成できてしまうのですが、その反面作成の方式が非常に厳格で、方式違背による遺言無効のリスクが大きい遺言とされてきました。
(実際に、遺言無効に関する裁判では、自筆証書遺言に関するものが圧倒的に多いです。)

 

自筆証書遺言はその全文すべてを自書しなければならず、それは、相続財産目録も例外ではなく相続財産が膨大な場合には、それをすべて自書するにはかなりの労力を要するとの指摘がありました。

 

今回の改正では、自筆証書遺言の問題点として指摘されていた、全文を自書しなければならない要件が一部緩和され、相続財産目録については自書する必要がなくなりました。

 

たとえば、目録を他人に代筆してもらうことも、パソコンで目録を作成することも、相続財産が不動産なら登記事項証明書を添付することも、相続財産が預貯金なら通帳のコピーを添付することも可能となりました。

 

注意点は、自書以外で作成した目録には遺言者が、署名・押印しなければならないことです。また自書以外の記載が両面にある場合は、その両面に署名・押印する必要があります。

 

自書以外で作成した目録に署名または押印を欠いてしまうと、その部分は無効となってしまいます。
又その部分が無効となったことにより、遺言の内容を特定することができないときは、遺言全体が無効になることがあり得るので注意が必要となります。

 

⇒施行期日を定める政令が制定され、自筆証書遺言の方式の緩和する方策は、2019年1月13日から施行されています。

 

自筆証書遺言の保管制度

今回、自筆証書遺言に関してもう一つ大きな改正がありました。

 

「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」とともに「法務局における遺言書の保管等に関する法律案」が可決成立し自筆証書遺言の保管制度が新設されたことです。

 

施行日について
⇒施行期日を定める政令が制定され、遺言書保管制度を2020年7月10日から開始されます。

 

まずは、現行の遺言書の保管に関して確認しておきましょう。

 

公正証書遺言の原本は公証人役場で保管されることから、偽造、変造、紛失、隠匿の恐れがないのに対し、自筆証書遺言の保管は遺言者の自己責任であり、公正証書遺言と比べて、偽造、変造、紛失、隠匿のリスクが大きいとされてきました。

 

しかしながら、自筆証書遺言にも一定のニーズがあり、偽造、変造、紛失、隠匿等のリスクを減少するための公的な保管制度を創設することの必要性が議論されてきました。

 

今回の改正では、法務局において自筆証書による遺言書の保管及び情報管理を行う制度を創設することとされました。

 

改正のポイントは、

@保管の対象である遺言書は自筆証書遺言のみ

 

A保管場所は法務局である

 

B遺言者本人が出頭して保管申請する

 

C法務局保管の遺言書は家庭裁判所の検認が不要となる

 

保管の対象となる遺言書は、自筆証書遺言のみであり、公正証書遺言や秘密証書遺言は対象外となります。

 

保管場所は遺言者の住所地、本籍地、又は遺言者所有の不動産の所在地を管轄する法務局とされています。

 

保管の申請は、遺言者本人が法務局に出頭し、申請書、遺言書、及びその他の添付書類を提出することによって行います。郵送による申請や、代理人による申請は認められていません。

 

公正証書以外の遺言を執行するには、家庭裁判所の検認が必要ですが、法務局に保管されている遺言書は検認が不要とされました。

 

保管制度の運用開始はもう少し先になりますが、自筆証書遺言を作成する人にとって、利用価値の高い制度になっているのではないでしょうか。

 

まとめ

今回の自筆証書遺言制度の改正により、自筆証書遺言のデメリットとされていた部分の一部が解消されました。

 

遺言書の保管制度では、申請の段階で形式要件に不備がないかどうか確認を行ったうえで、申請を受け付けることが想定されることから、形式上の不備による無効のリスクは軽減されるのではないでしょうか。

 

ただし、今回の改正により、遺言の実質的有効性が担保されるわけではなく、遺言書が無効となるリスクは依然残されたままであり、自筆証書遺言の作成にはやはり専門家のアドバイスを受けることは必須であると考えます。

 

ご覧いただきましてありがとございました。

 

 

ブログ執筆者

○司法書士 八木 隆
○名古屋市瑞穂区白砂町二丁目9番地 瑞穂ハイツ403
○TEL 052-848-8033

 

不動産登記手続、相続手続、会社法人登記手続、裁判所提出書類の作成業務等を行っています。
ご相談は無料ですので、安心してお問い合わせください。

 

このページの上に戻る

トップへ戻る