遺言書における「相続させる」と「遺贈する」といった文言の使い分け方

今回は、遺言書を作成する際、「相続させる」という文言と「遺贈する」という文言をどのように使い分けるのかについて説明します。

 

自分の死後に、自身が所有する不動産、預貯金等の財産を特定の者に取得させたいときは、遺言書を作成します。

 

公証実務では、財産を取得させたい特定の人が、相続人か相続人以外の者(非相続人)かで、遺言書に記載する文言を次のように使い分けるのが通例になっています。

 

相続させる旨の遺言とは

特定の相続人に特定の財産を取得させたいときは「(不動産、預貯金等を)○○に相続させる」と遺言書に記載します。

 

いわゆる『相続させる旨の遺言』と呼ばれているものです。

 

もともとは、登記原因が「相続」か「遺贈」かにより登録免許税の税率が異なっていた時代に、登録免許税の負担を軽減するために公証人の工夫により編み出された記載文言であり、まずは公証の現場において定着したと言われています。

 

ちなみに、当時(平成15年法改正以前)の登録免許税の税率は登記原因が相続の場合は1000分の6、登記原因が遺贈の場合は、1000分の25でした。

 

現在は不動産を取得する者が相続人であれば登記原因が相続でも遺贈でも1000分の4で、同じ税率になっています。(非相続人への遺贈は、1000分の20です。)

 

その後、最高裁判所も「相続させる旨の遺言」の有効性を認め、その法的性質は「遺産分割の方法の指定であり、遺言の効力が生じると直ちに受益相続人に権利が帰属する」と述べています。(最判平3・4・19)

 

 

相続人以外の者に財産を与えたいときは遺贈する

相続人以外の特定の人(非相続人)に特定の財産を取得させたいときは「(不動産、預貯金等を)○○に遺贈する」と遺言書に記載します。

 

遺贈は、相続人に対しても行うことができますが、遺贈でなければならない特別の理由がなければ、相続人に対しては相続させる旨の遺言を作成するのが一般的です。

 

遺言を作成するうえで、特に注意を要するのは、相続人でない者に対して特定の財産を取得させたいときは、遺贈するという文言を使うことです。

 

公正証書により遺言書を作成するときは、公証人が作成に関与しますので、法律上疑義が生じるような文言を記載した遺言書が作成されることはまずありませんが、自筆証書遺言では、相続人以外の者に相続させる、あげる、譲渡する等の後々問題となるような文言を記載した遺言書が散見されます。

 

相続人でない者は、相続することはできません。

 

相続人でない者に対して特定の財産を相続させる旨の遺言は文言だけを忠実に解釈すれば無効であるといえます。

 

しかしながら、法律的には不正確な文言を記載した遺言が直ちに無効になるわけではありません。

 

遺言はなるべく有効になるように解釈すべきであるという、「遺言有効解釈の原則」があります。

 

最高裁判所は「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探求すべきである」と述べています。(最判昭58・3・18)

 

この原則によれば、遺言書に相続人以外の者に相続させると記載されていたとしても、遺言者の真意はその者に自己の財産を与えたいということで、「相続させるというのは遺贈することだ」と解釈する余地は十分にあることになります。

 

しかしながら、取得させたい財産が不動産の場合は少し厄介なことになります。

 

相続にしろ遺贈にしろ、不動産を取得したときは、法務局に登記を申請し名義を変更することになるのですが、登記ができるかできないかは提出された申請書と添付書面のみによって判断するという原則があります。
これを『登記官の形式的審査権』と呼んだりしています。

 

相続人以外の者が相続させる旨の遺言書を提出して相続登記を申請しても相続人でない者名義の相続登記はできません。相続登記には、申請人が相続人であることを明らかにするために被相続人の戸籍謄本等の提出が求められていますので、相続人でない者が相続登記を申請しても相続人ではないことが法務局にわかってしまいます。

 

では、遺言書に記載されている相続させるというのは、遺贈するという意味だとして遺贈による所有権移転登記を申請した場合はどうでしょうか。

 

形式的な審査権限しか有しない登記官としては、遺言書に相続させると記載されている以上、相続として処理するのが原則となります。

 

申請書の内容(登記原因を遺贈と記載している)と添付書類の内容(遺言書には相続と書かれている)が一致しないときは、その申請は却下されることになります。

 

もっとも、相続人以外の者に対する相続させる旨の遺言を遺贈と解釈して、登記原因を遺贈とする所有権移転登記を認めた例はありますが、あくまでも個別案件についての例外的取り扱いであると考えるべきでしょう。

 

自分の死後に、内縁の配偶者、兄弟姉妹(第一、第二相続人がいない場合を除く)、子の配偶者等に自己の財産を与えたいと思う方もいらっしゃるでしょう。

 

上記の者は、いずれも相続人ではありません。
これらの者に対して、自分の死後に財産を与えたいときは、遺贈という文言を使用しなければなりません。

 

間違って、相続させるという文言の使ってしまうと、遺言の有効性について相続人とトラブルになることは十分に予想できますし、相続人全員が財産の取得を認めている場合でも不動産登記等の名義変更をスムーズに行うことは難しくなります。

 

遺言書を作成するときに注意すべき点は多々ありますが、相続人に財産を与えるときは『相続』、相続人以外の者に財産を与えるときは『遺贈』と記載することだけは覚えておいてください。

 

ブログ執筆者

○司法書士 八木 隆
○名古屋市瑞穂区白砂町二丁目9番地 瑞穂ハイツ403
○TEL 052-848-8033

 

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