相続等により取得した譲渡制限株式の買取り

相続その他の一般承継（合併等）（以下「相続等」という）による譲渡制限株式の取得は、会社の承認の対象外であり、相続人その他の一般承継者（以下「相続人等」という）が譲渡制限株式を当然取得することになります。

 

株式会社が当該相続人等が自社の株主になることを望まない場合、当該譲渡制限株式を取得する方法として、相続人等との合意により取得する方法と、相続人等売渡請求よる強制的に取得する方法があります。

 

相続人等との合意による取得

相続人等との間で買い取りについての合意ができる場合は、以下の手続により相続等により取得した譲渡制限株式を株式会社が有償取得することができます。

 

株主総会の決議

譲渡制限株式を相続等により取得した相続人等から有償で取得するには、予め株主総会の決議により次の事項を定める必要があります。

 

株式会社が特定の株主を対象に自己株式を有償取得する場合は、他の株主は、定款に別段の定めがない限り、自己も取得の対象に加えることを株式会社に請求することができる（売主追加請求権）のですが、相続等により取得した譲渡制限株式を当該相続人等から有償取得する場合で、以下の要件を満たすときは、他の株主は売主追加請求権を行使することができないので、特定の相続人等のみを対象として譲渡制限株式を取得することができます。

 

取締役会等による取得決定

株式会社が株主総会の決定に従い実際に株式を取得する場合は、取締役会の決議（取締役会非設置会社は取締役の決定）によりその都度、以下の事項を決定する必要があります。

 

株式会社は対象株主（相続人等）に対して、取締役会等で決議した事項を通知しなければなりません。

 

相続人等売渡請求による強制取得

有償取得について相続人等との間で合意ができない場合でも、「当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式（譲渡制限株式に限る）を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる」旨の定款の定めがあれば、譲渡制限株式を相続等した相続人等株主から強制的に当該譲渡制限株式を有償取得することが可能です。

 

株主総会の決議

譲渡制限株式を相続等した相続人等株主に対して、定款の定めに基づき売渡請求をする場合は、予め株主総会の特別決議により、以下の事項を決定する必要があります。

 

なお、上記株主総会において、売渡請求される相続人等株主はその議決権を行使することができません。

 

売渡請求

株式会社が上記株主総会の決議に基づき売渡請求をする場合、相続その他の一般承継があったことを知った日から１年以内に行使しなければなりません。

 

売買価格の決定

譲渡制限株式の売買価格は、株式会社と売渡請求をされた相続人等株主との協議によって決定します。

 

株式会社又は売渡請求をされた相続人等株主は、売渡請求があった日から２０日以内に、裁判所に対して売買価格の決定を申立てることができます。

 

裁判所に対して売買価格決定の申し立てがあった場合は、裁判所が株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮して決定した額が売買価格になります。

 

売渡請求があった日から２０日以内に裁判所に対する売買価格決定の申し立てがないときは、売渡請求はその効力を失います。（期間内に当事者の協議が成立した場合を除きます。）

 

財源規制

相続人等との合意による有償取得か、相続人等売渡請求による強制取得かに関わらず、当該譲渡制限株式の取得財源は分配可能額の範囲内に限ります。

 

分配可能額について
分配可能額の計算式は複雑ですが、一応の目安として、その他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額から自己株式の簿価を控除した額が分配可能額になります。
詳細は、会社法４４６条（剰余金の額）、４６１条２項（分配可能額の計算）等を確認してください。

 

株式会社が分配可能額を超えて、譲渡制限株式を有償取得したときは、それに関与した役員は賠償責任を負うことになります。